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新海誠・琴音らんまる『君の名は。』 01

新海誠原作、琴音らんまる漫画『君の名は。』01は、大ヒット上演中(2016・8~)の新海誠監督のアニメーション映画『君の名は。』のコミカライズだ。

生まれ変わったら男の子になりたい、それが口癖だった田舎の女子高生宮水三葉は、不思議な夢を見る。はっきりとは覚えてないが、翌日家族や友人など周囲の人は、口をそろえて三葉の行動が変だったという。男っぽい行動や髪型の上、男子トイレに入ろうとする、狐憑きかと言われる。そしてノートの上に残された「お前は誰だ?」の文字。

三葉は、田舎での生活に飽き飽きとしていた。狭くて秘密のきかない町が嫌だった。家は神主の家系で、自分も巫女の役割を果たし、そこで口噛み酒の神事を行わなければならず、それを学校の友達に見られるのが嫌だった。

そうして朝目が覚めると東京の男子高校生に生まれ変わる夢を見た。そこでは、放課後友達とカフェに行き、さらにイタリアンの店でアルバイトしている。美人の先輩スタッッフのスカートを直したりして、気に入られてしまう。

三葉と意識が入れ替わったのは、立花瀧という高校生らしい。夢かと思ったがその間に、自分の意識を別の人間が入り込んでいたようだ。

そして二人は、異性としての生活を楽しんでしまう。するとそれまでの生活に変化が生じ始める。三葉は、スポーツウーマンとなり、女子からも男子からも告白されるようになり、瀧もそれまで話しかけられなかった女性といつの間にかデートにまでこぎつけたことになっていた。男の身体を女が操縦し、女の身体を男が操縦した方がモテにつながるというのが、前半のツボである。

事態を理解した二人はやがて三葉のノート、瀧の相互に約束をするようになる。自分の裸を見るな、胸をさわるな、あぐらを組むな、ブラジャーをしろ、スイーツにお金をつかいすぎるな、といった男女のデリケートな部分での暴走を避けるためである。だが、その約束が完全に守られることはない…

生活を共有することで、いつしか二人は、意識し合うようになる。どこか遠い場所のその人は、本当に存在するのだろうか。

思春期の少年少女の意識の入れ替わりという点では、大林宜彦の映画『ふたり』の焼き直しのように見えるが、意識が頻繁に交換され、元の身体に戻れない不安がない点と、相手が遠く離れて面識がない点が異なる。距離による恋愛の特権化は新海誠の十八番のモチーフなのだ。

『秒速5センチメートル』のように、前半運命的な出会いへの期待を思いきり煽ったのに、後半あまりに現実に近づけようとして、盛り上がりを欠いてしまうこともないだろう。漫画家の琴音らんまるは、過去に細田守の『時をかける少女』のコミカライズを手がけたこともあり、キャラクターも違和感がなく、描線も丁寧だ。コミックにしても、思いきり楽しめる傑作に仕上がっていると思う。

一気に、最後まで読み切ってしまいたいが、『君の名は』は雑誌「月刊コミックアライブ」で連載中で、2巻はまだ出ていない。近くに上映中の映画館がなく2巻やDVDが待ちきれない人は、新海誠自身による『小説 君の名は』がお勧め。

 

 

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